トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
やっぱりあの引越し業者、私の盗撮に気付いてたか。
早速通報しやがりましたね。
飛び上がり部屋を見回すが、逃げ場がない。
「……何を話せばいいですか?」
私と同じ事に思い当たったのだろう。
浪瀬が、少し間を空け、固い返事をする。
それは、知らない人が見れば、突然訪ねてきた警察に警戒しているととれるだろう。
冷や汗ものの私と違って堂々としてるわ。
ほにゃらら股で鍛えた対人スキルは伊達じゃないってか。
「実は、お隣の灰原(かいはら)さんの家に空き巣が入りまして、目撃情報を……」
そっちか。
よかった、私じゃなかった。
緊張が一気にとけ、その場にしゃがみ込み、ため息。
盗撮が通報されたのではなかった。
それに、空き巣に入られたと言った。
つまり彼らは、夜逃げに加担した引越し業者ではなく、空き巣だということ。
盗撮のことに気付いても、通報できるわけがない。
犯罪者が他人の犯罪を訴えに警察に駆け込むなんて馬鹿な真似、基本するはずがないから。
つまり、警察に盗撮はバレてない!
浪瀬もそれに気付いたのでしょう。
近所で起きた事件に怯える一般人に擬態した。
「空き巣ですか、物騒ですね……」
「警備会社の社長宅というのだから、笑い話ですよ」
「防犯システムにひっかからなかったんですか?」
「それが、変電所が火災にあってここら一帯停電になったでしょう。防犯カメラも何もかも使えなくなったんです。変電所火災も空き巣の仕業として捜査を進めているところで………」
口の軽い警察ですね。
大事な捜査情報でしょうに、簡単にペラペラと。
……あ、プリンター発見。
「おかげで捜査は難航しそうでね。こうして聞き込みに回っているわけですよ、ハハッ」
笑い事じゃないですよ、おまわりさーん。
浪瀬の緊張をほぐそうとしてくれてるのかもしれませんが。
そのぶ厚い猫かぶってる男にそんな気遣い無用ですから。
プリンターとカメラを繋ぎ、深夜に撮影したそれらを印刷していく。
「へぇ、お疲れ様です。聞き込みの成果はどうでした?」
「それが、運の良いことに、現場の前に集まったご婦人方から、たいへん貴重な証言をいただきまして。この家にお邪魔したのは、形式上ってやつですよ」
「へぇ………」
難航なの、良好なの、どっちなの。
と、ツッコミたくなるのを抑えた。
きっと浪瀬も同じ気持ちですよね、その微妙な返事は。