トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
そして、真相に近づく昼休み。
空き教室にて、約束もないのに当然のように顔を合わせる浪瀬への。
「俺様がんなことするわけねぇだろ」
問いに対する第一声がそれだった。
やっぱりか、と思いながら弁当をつつく。
「顔は広くても、口は堅い男だぜ?」
彼は鼻を鳴らす。
「でも、貴様以外に思い当たる節がないのも、また事実」
だから浪瀬に聞いてみたのよ、一応、確認として。
………ハズレだったみたいだけど。
「トイレの神様情報漏洩事件、聞いたよ。もちろん、俺様は野枝を信じていたけどな!」
潤んだ瞳を白のハンカチで隠す浪瀬。
その動作はあまりにも自然で。
嘘泣きであるとわかっているのに、とても悪い事をした気にさせられた。
「…………悪かったよ」
つい口が滑る。
気付いた時にはもう遅く、おかげで浪瀬は調子に乗った。
「なのに野枝は俺様を疑ったんだ」
「だから悪かったって!」
こうなりゃヤケですわ。
客観的に見て、一方的に疑って違っていたのに『はいそうですか』で済ませていいものじゃない。
自分の非を認めよう。
「悪かったは謝罪じゃありませんー。ごめんなさい。言ってみ?」
「……ごめんなさい……………」
顔をそらして、小さな声を発した。
いやほんと、悪いとは思っていますよ。
彼が本当に犯人じゃないのなら。
「何があっても忍のことを信じます。はい」
「………そこそこ信用できる奴とは、思っています」
軽い気持ちで復唱して、揚げ足取られてはかなわない。
何があっても信じられるほど、浪瀬にいい感情を抱いていないから。
「んー、ちょっと違うけどいいや。んじゃ」
浪瀬はひとつ咳払いをしてから、美しいテノールで。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓うよな?」
「そこに行き着くまでに何があったんだい!?」
最後は違うが、途中までは結婚式の誓いの言葉。
私になにを誓わせる気ですか。
気を張っていたのが馬鹿らしいわ。