トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐



「数々の試練を乗り越えたふたりに愛が芽生えないはずがない!」



「あーはいはい、吊り橋効果ね」



「つーわけで、俺様の無実を証明しなきゃな」



これも愛の試練のひとつだ。

と、張り切る浪瀬。


試練は試練でも、私と浪瀬の愛の試練では無い。


絶対。

何があっても。

断固として。



弁当を片付け、お茶を飲んでひと息つく。

さて。



「どうやって無実を証明する気?」



問いかけると、浪瀬は顎に手を添え、目を伏せた。



「ふむ………」



人差し指の触れる艶やかな唇に、視線が引き寄せられる。


違う、あれはよくある探偵の考える姿勢だ。


惑わされるな。



「そうだな。俺様の調査によると、漏洩内容は平井美友が伊藤翔平を好きだという話だ」



平井美友が伊藤翔平を好き。


相談されたことの相関は気にするようにしている。


そのどこにも、ふたりの名前は無い。



「心当たり無いか?」



「………私はそんなこと、聞いた覚えがないわ」



「でも、神様に話したという。そして実際広まってるんだ。となると………」



浪瀬の言葉の続きは想像ができた。



抜かった、少し考えればわかること。



トイレの神様の顔や声を知る人物は、浪瀬忍のみ。


校舎裏に一番近い女子トイレで、神様と呼びかけ返事があれば、それがトイレの神様なのだ。


それが本物かどうか確かめる術はない。



つまり、トイレに入れば、誰でも神様になれるのだ。


顔バレしたくない自分が選んだ方法だけどさ。

こう悪用されると、ふつふつと腹の底から湧き出てくるものがありまして。



「いざ、成敗してくれる!」



「辞める辞める詐欺やってたくせに、ちゃんと愛着あるじゃねぇか」



「愛着があるから辞める辞める詐欺やってたのよ!言わせんな!」



私は捨てられない女なのですよ。


てか、なんで辞める辞める詐欺してたことしってんの?




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