トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
「だけどまぁ、ここは俺様に任せときな」
「何言ってんのさ。私に売られた喧嘩だよ。本物のトイレの神様直々に買ってやろうじゃありませんか」
自身の右拳を左掌に打ち付ける。
小気味いい音は、戦闘開始の合図。
「俺様だって、野枝に惚れてもらうチャンスなんだ。逃してたまるかよ」
「知ったこっちゃないわ。それとこれとは別の話でしょ」
「同じだね」
「違いますー。私に売られた喧嘩を、貴様が買ってどうするんですかー」
「言っただろ、好きな人の力になりたいんだよ」
浪瀬は背後に、大輪の花とキラキラを飛ばしているが、騙されないよ。
「前にも聞いたわ。ただし、見返り目的なんでしょ」
私、知ってるんですからね。
浪瀬、前にも言ってたもんね。
彼は、ちっちっと舌を鳴らし、指を振る。
「ふっ、今回の俺様は一味違うぜ」
もったいぶらずにはよ言えや。
「何たって、俺様の有能さをプレゼンするんだからな」
「どこが違うのさ」
「俺様が使えるとわかれば、手元に置きたくなるだろ」
「今の状態と変わりませんね」
「変わるだろ!」
「いんや、変わらない。私は使えると思ってるから協力要請とかしてたのだけど」
「え?」
「現に今、相談してるし」
「それは、俺様が押しかけたからじゃ…」
押しかけている自覚はあったのね。
でも。
「押しかけられたからって口を割るほど、責任感が無いわけじゃない」
「……俺様とつるみ始めた頃を思い出して、もう一回言ってみな」
はて。
浪瀬と行動し出して、間もない頃。
ある晴れた空の下。
ついうっかり、ぽろっと………。
「………あの時すでに、浪瀬がトイレの神様の協力者になると予感していたのだよ」
「調子いいな」
なんとでも言え。
私の直感は正しかった。
実際、今の浪瀬はトイレの神様の協力者。
間違っちゃいないでしょ。
「だけどな、協力者ならなおのこと。この件に手を貸す理由がある」
「しつこいなぁ。これは個人の喧嘩だよ。なに複数でかかろうとしてるのさ。卑怯だわ」
「喧嘩を売られたのは、野枝個人じゃない。トイレの神様だ。トイレの神様は野枝と俺様のふたり。ちっとも卑怯なんかじゃねぇよ」
「協力者がしれっとトイレの神様名乗らないでくれますかー」
それからは似たような押し問答で、話が逸れたままに昼休みが終わりを告げた。