トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
翌日は、朝から気分が重かった。
早めに教室に来て、耳をすますけれど例の話題はないようで。
「はぁー………」
がっくりうなだれる。
「はよー、浪瀬。なんだか機嫌いいな」
男子の浪瀬を呼ぶ声に、肩が跳ねた。
「まあな」
「さては、本命ちゃんとうまくいってるんだろ。羨ましいぞこの!」
「はははっ」
笑って流す浪瀬。
機嫌がいいってことは、浪瀬は情報を入手したんだ。
くそっ……。
彼に、情報戦で負けた事実に臍を噛んだ。
それから休み時間になるたび、情報収集に出かけたが、なんの成果もあげられないまま。
昼休み開始8分後。
「よお。元気ねぇじゃん」
浪瀬忍襲来。
初めて使う空き教室を選んだというのに。
「なんでそういつも私の居る所がわかるのよ。どっかにGPSでも仕込んでるの?」
頭を抱えたくなり、幾分声が低くなる。
私が教室を出る時に、彼はクラスメートと盛り上がっていたから尾行は無理でしょうし。
「愛の力だよ!」
「愛という名の科学の力じゃなくて?」
発信機どこにつけられたのかな。
ポケットの中を探っても、持参したハンカチちり紙に触れただけ。
「正真正銘愛の力だよ!」
浪瀬はいつものように、私の隣にどかりと座った。
「んで、調査結果だけど……」
「待って」
「………なんだよ」
いざ披露といったところで遮った私を、浪瀬は不審がる。
いやいや、なんで貴様がそんな顔するのさ。
不審に思うのは私の方。
「浪瀬、私を笑いに来たんじゃないの?」
「笑う?なぜ?」
彼はわからないという顔をする。
こっちがわからないよ。
「だって、私、何も聞き出せなかった。………あんな偉そうなこと言っといて、貴様に負けたんだよ」
「俺様に負けたとかなんだよ。そんな話ひとこともしてねぇし」
そりゃ、はっきりと口にされなかったけど。
「実際浪瀬は情報を手に入れてて、私にはない。どう考えても負けてるじゃない!」
訴えても、彼はやはり首を傾げたままだった。
「………何か勘違いしてないか?」
「勘違い?」
「今回の敵は偽者のトイレの神様だろ」
「決まってるじゃない。何を今更」
トイレの神様の名を貶める奴を成敗しようと、偽者探しを始めたのだ。
忘れるわけがない。
「俺様は本物のトイレの神様の協力者だ」
「自称、協力者でしょ」
自称のところを強調して言ってやる。
が、黙殺された。