トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
「見物料は高くつくぜ」
逃げようとした背中にかけられた声。
仕方なく回れ右をした。
それはもう、嫌な顔で。
「何?ぼったくる気?」
「人聞きが悪いなぁ。見世物にはそれなりの報酬を払うもんだろ…………持ってないってんなら仕方ねぇ。貸しひとつな」
ため息ひとつ。
私はポケットを探ると、指先に触れたモノがある。
ずんずん距離を縮めて浪瀬の手首を握り、逆の手であめだまを彼に握らせた。
「って、菓子じゃねえょ!ネタが古い!」
「何言ってんのさ。江戸時代、砂糖は高級品で…」
「だからネタが古い!今何時代か知ってるか?」
「バカにしないでよ。そこまで耄碌してないわ」
「耄碌の域超えてるっての。……まあいい」
彼はあめだまの袋を歯で破り、中身を口内に招き入れる。
「………ホワイトデーのお返しなら、大歓迎」
「今何月か知ってるかい?」
「そこまで耄碌してねぇよ!」
「それによ。ホワイトデーは、男性から女性に、バレンタインデーにもらったプレゼントのお返しをする日でしょ」
「甘いな。最近は逆チョコってのが流行りだ。つまり、野枝から俺様にホワイトデーのプレゼントがあったっていいだろ」
一理ある。
「でも残念。始まりのバレンタインデーがないわ」
「チョコならやった」
「はぁ?いつ?」
「文化祭で、チョコバナナ、買ってやったろ」
チョコバナナ………。
色々買ってもらったけど、その中に有ったかと言われると覚えがない。
かといって、無かったとも言い切れない。
考え込んでいると。
「俺様が野枝にチョコを渡す。野枝は俺様に飴をくれた。即ち、両想いってことで……」
「んな理屈、まかり通ってなるものか!」
てかそれ、2月14日ではない時点でカウントされないものだよね!
という事に気づくのは、ベッドにもぐり、意識を落とす直前のことだった。