トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
音楽室に、置きっぱなし………。
さっと、顔から血の気が引いていくのが分かった。
深く考える前に、来た道を全力疾走します。
開けっ放しの扉から、半分だけ顔を出して教室を覗く。
窓に腰かけている男子生徒を見つけると、向こうもこちらに気づいた。
「戻ってきたな、安田野枝。お前の望みの物はここにある」
彼が指したのは私のカバン。
「そこにいるのは分かっている。早く出てこい」
私はおとなしく教室に入り、扉を閉める。
どこの犯罪者よ。
「ったく、俺様から逃げるなんて、お前が初めてだ」
「……浪瀬忍……」
親の敵でも見るように睨みつける。
「怖い目だな。ブサイクがもっとブサイクになる」
「……学校の女子、全員の名前を憶えているという噂は本当のようですね」
「いや、俺様が覚えるのは、かわいい女の子だけだぜ」
ウインク付きで言い切る彼の仕草は、普通の人がすれば気持ち悪いもの。
しかしそこはイケメンマジックで、3割増しにかっこいいと言われることでしょう。