トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
何度裏切られることがあっても変わらずに。
それが彼のいいところでもあるのだけど。
そんな竹中麻晶のことを知った時は、手出しできなくて歯がゆい思いをしたことです。
でもやっと、力を貸せる。
もともと私が『トイレの神様』を始めたのは、彼のような人の手助けがしたかったから。
久々に本業ができると思うと、腕が鳴るわ。
「じゃあ、君が安心して次の恋愛に進めるよう、力を尽くそう」
「はいっ! ありがとうございます!」
運動部特有の気持ちのいい挨拶は、私の心を弾ませた。
* * *
授業合間の休み時間。
誰にも見咎められることなく、2年の教室が集まる3階に降り、人の波に乗った。
この学校の制服はブレザーで、ネクタイも全学年同じ色。
6クラスもあれば、顔を知らない生徒が歩いていても不思議に思うことは無い。
私は、ある教室の前まで来ると、目的の人物に一番近いグループの陰に隠れてそれを観察した。
席について、書店ロゴのはいったブックカバーのついた文庫本を読んでいる彼女がその人物。
竹中麻晶に告白して逃げた北村美友紀(きたむらみゆき)である。