トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
私はそれをしなかった。
気分が良かったから。
そう、全ては気分が良かったから許していたこと。
「お、浪瀬じゃねぇか。そんなところで何してんだ」
「バッカ。告られてんに決まってんだろ、黙って見とけ」
「…………」
誰かに見られてさらし者になるなら、どんなに上昇した気持ちも急降下ってもんですよ。
「………浪瀬」
ドスを効かせた低い声で呼ぶと。
「何だよ」
眉間にしわを寄せて不機嫌な様子の浪瀬は返事をくれた。
今、その顔をしたいのはこっちの方。
「あいつら連れてどっか逝け」
「言われなくても、そうするっつの。てか、漢字変換間違ってないか?」
「気のせいじゃない? あと……」
私に背を向けた浪瀬は踏み出しかけた足を止めた。
「放課後、私に付き合え」
「はあ?」
「それだけだから」
言い終えると、用は済んだとしっしと手を払う。
彼はしばらく私を睨んできたが、外野が五月蝿くて早々に階段を上って行った。
浪瀬を先頭に、その仲間たちが遠ざかっていくと、こちらを見る者はいなくなる。
それからしばらく、額を押さえたまま痛む頭と戦った。