トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
軽口を叩きながら、彼女の様子をうかがう。
下を向いて表情はわからないけど、耳が赤い。
「よっぽどあの人が好きなんだねー」
「何言ってんだ?」
「見て分からないの? あの人、さっきの男の人が好きなんだよ」
「それはこっちのセリフだ。あの女はさっきの男の事なんか好きじゃない。少なくとも、付き合いたいとかいう意味じゃねぇよ」
自信満々に言う浪瀬の声に迷いはない。
あるのは確信だけ。
「どうしてそんなことがわかるのよ」
「俺様が言うんだから間違いない」
根拠も何も無い。
「どんな理屈…」
もう、こいつと話すの疲れた。
話が通じない、翻訳機カモン!
「現に、あの人はさっきの男の人に告白してる。嘘つく性格じゃないし、どうやったら好きじゃないなんて言えるの?」
「………目、だな」
浪瀬は少し考えるそぶりを見せて、出した答えがそれだった。
「目?」
「あれは恋する乙女の目じゃない。友達に向ける目だ。大方、さっきの男に話しかけたくても言い出せないってとこだろ」
「………」
ちょっと引いた。
「何のつもりだ」
「いやー、ヤリチン浪瀬から『恋する乙女の~』なんてセリフが出るなんて思ってもみなかったわ」
心底ビックリしたと言うと、無言で頭を叩かれた。
割と強くて、クラクラする。