トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐




軽口を叩きながら、彼女の様子をうかがう。




下を向いて表情はわからないけど、耳が赤い。





「よっぽどあの人が好きなんだねー」




「何言ってんだ?」





「見て分からないの? あの人、さっきの男の人が好きなんだよ」





「それはこっちのセリフだ。あの女はさっきの男の事なんか好きじゃない。少なくとも、付き合いたいとかいう意味じゃねぇよ」




自信満々に言う浪瀬の声に迷いはない。




あるのは確信だけ。





「どうしてそんなことがわかるのよ」





「俺様が言うんだから間違いない」




根拠も何も無い。




「どんな理屈…」





もう、こいつと話すの疲れた。



話が通じない、翻訳機カモン!





「現に、あの人はさっきの男の人に告白してる。嘘つく性格じゃないし、どうやったら好きじゃないなんて言えるの?」





「………目、だな」





浪瀬は少し考えるそぶりを見せて、出した答えがそれだった。





「目?」




「あれは恋する乙女の目じゃない。友達に向ける目だ。大方、さっきの男に話しかけたくても言い出せないってとこだろ」




「………」





ちょっと引いた。





「何のつもりだ」




「いやー、ヤリチン浪瀬から『恋する乙女の~』なんてセリフが出るなんて思ってもみなかったわ」





心底ビックリしたと言うと、無言で頭を叩かれた。



割と強くて、クラクラする。





< 65 / 252 >

この作品をシェア

pagetop