グッバイ・ティラミス



密室に、先生とふたりっきり。

先生が何も思ってないことも、ふたりっきりだからと言って何も起こらないことも、経験上から知っているんだけど。


それでも私は、この状況に嬉しくなる。いろんな人に自慢して、惚気たくなる。



「ここが、なんでこういう訳になるかわからないの。」

「どれ?」


こうやって、先生が問題集を覗き込む時に一気に近くなる、この瞬間が好き。
先生の息づかいや睫毛の長さまでもわかる、触れそうで触れないこの距離具合が好き。



今私、心臓止まってしまいそう。



「あ、ここはな〜。」



先生がふいっと、問題集から顔をあげた。その瞬間、一気に先生との距離が遠くなって。


近すぎるのはドキドキしちゃうから嫌だけど、離れるのは離れるので寂しいと思ってしまう。


右肩が、寂しい。



「主語が長くて、複雑な構文なんだけど。」



先生が手元に持っていたボールペンを、カチッとならした。





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