グッバイ・ティラミス
仕方ないので、椅子から立ち上がる。
私が椅子をギギッと鳴らしても、周りがうるさいから全然響かなかった。
ペンや消しゴムは思ったよりも遠くの方に拡散してしまったみたいで。どこに行ったかわからない、わりとお気に入りのペンたちに、頭が痛くなってくる。
とりあえず、自分の目の前に落ちている数本のペンだけを拾って。
あとは、授業が終わってから回収しにいこう。
そう思った時だった。
「ーー大丈夫ですか…?」
ふんわりと、甘ったるい香りと同じ甘ったるい声が、私の鼓膜を揺らす。
弱々しくて、人の顔色を伺ったような、私のあまり好きではない声。
中村先生の、声。
中村先生が教卓前に転がったのであろうピンクのシャーペンを差し出しながら、遠慮がちに私を見ていた。