グッバイ・ティラミス



中村先生にお礼を言わなかったのは、私のどうしようもないプライドのせいだった。



中村先生は、先生の彼女で。
先生の彼女である中村先生は、私が一番欲しいものを手に入れていて。



先生に下の名前を呼んでもらったり、頭撫でてもらったり、ギュッとしてもらったり、できる人。

英語でわからないところがなくたって、進路とかで悩んでいなくても、「会いたい」っていう理由で、先生に会える人。



悔しかった。

私がほしいものを全部持ってる中村先生に助けてもらったことが、情けなくて。


私のシャーペンを拾った手のひらで、先生とも手を繋いだりしてるのかと思うと、どうしても穏やかではいられなくって。



何より、中村先生を批判できなかったのが、苦しかった。



「静かにしてください…!」


中村先生が生徒に呼びかける。

高くて、甘ったるくて、鼻にかかったような声。


中村先生の声が聞こえてくる耳を塞いでしまいたい。




< 43 / 125 >

この作品をシェア

pagetop