グッバイ・ティラミス
超えたかったもの
「ーーゆみ、この前、なっちゃんのクラスで泣いたんでしょ?」
中村先生と私が気まずい空気になった数学の授業から、初めての金曜日。
英語の文法問題を解いていた私に降ってきたのは、唐突な先生の言葉だった。
「えっ…。」
「ゆみが言ってたよ。生徒を怒らせてしまった、って。」
背中にじんわりと嫌な汗をかいていくのを感じる。
そんな焦りをバレないように、私は必死に英文法の問題を凝視して、問題を考えてるフリをした。
「ーーなっちゃんでしょ。」
「……。」
「なっちゃん、ゆみに喝入れたらしいじゃん。」
…なんで、
なんでそんなことまで、先生に漏れているのよ。
「ゆみ、あんなこと生徒に言われたの初めてだ、って言ってたよー。」
先生の表情は
彼女を困らせたから怒ってる、って感じでもないし
嫌味を言いたい、ってわけでもなさそうで。
冗談ぽく、さらりとした笑顔で。