グッバイ・ティラミス

超えたかったもの






「ーーゆみ、この前、なっちゃんのクラスで泣いたんでしょ?」



中村先生と私が気まずい空気になった数学の授業から、初めての金曜日。
英語の文法問題を解いていた私に降ってきたのは、唐突な先生の言葉だった。



「えっ…。」

「ゆみが言ってたよ。生徒を怒らせてしまった、って。」



背中にじんわりと嫌な汗をかいていくのを感じる。
そんな焦りをバレないように、私は必死に英文法の問題を凝視して、問題を考えてるフリをした。



「ーーなっちゃんでしょ。」

「……。」

「なっちゃん、ゆみに喝入れたらしいじゃん。」



…なんで、

なんでそんなことまで、先生に漏れているのよ。




「ゆみ、あんなこと生徒に言われたの初めてだ、って言ってたよー。」



先生の表情は

彼女を困らせたから怒ってる、って感じでもないし
嫌味を言いたい、ってわけでもなさそうで。


冗談ぽく、さらりとした笑顔で。




< 92 / 125 >

この作品をシェア

pagetop