勇者34歳
教師の居住区は比較的静かだった。

「だいたいは校舎で授業してるもんな…。」

ラウザがしばらく立ち止まる。

「このへんには、間違いなくターゲットがいたんだろうけど、今はいない。」

「どういうことだ?」

「一時的に身を隠して、拠点だけ移したのか、普通の教師や職員に化けてるのか、とにかく、今ここにはいない。」

ある意味便利な魔力感知器だな…。

「それに、妙に魔力が濃いな。結構魔力は削ぎ落としたはずなんだけど。」

「ラウザ、ターゲットとやらがここに潜伏してるなら、どうしてトランコランで力を補充したんだ?」

「知らない。魔族は気まぐれだしな。」

ラウザは盛大にため息をつくと
居住区をふらふらと歩き始める。

「僕はもう少し、探してみるから勇者さんは聞き込みして。」

なんでラウザに指示されるのかわからないが
確かに手分けしたほうが効率がいい。

俺も盛大にため息をつくと、
食堂に戻るために来た道を逆に歩く。

食堂が近くなった頃、
遠目からもわかるくらい
大量の学生で溢れていた。

何の会場だよ。

人込みを掻き分けて前に進むと。

「イルル!?……ばかぁあぁ〜…。」

俺の口から勝手に情けない声が漏れた。

レグナくんよりも小さいくせに。

レグナくんを守るように
背中にかばってモップを構えている。

少しやんちゃそうな男子生徒達と
睨み合っているのはイルルだった。

「あの、ホントに、やめてください…。」

レグナくんは本当に困っている。

イルルは既に何人か倒したらしく
それも、男子生徒たちが
引くに引けない状況を
作り上げてしまったのだろう。

しかしイルルもかなりの擦り傷があった。
何度か弾き飛ばされたようだ。

「〜〜〜ッ!」

どうすればいいんだよ。

「やっと戻ったか。」

目ざとく俺を見つけたリーヴェが
近寄ってくる。

「JJさんは見失ったから、ぽこさん、手伝ってくれ。」

いつもはニヤニヤして
事態を静観してるだけのヤツが
何をするつもりだ?

不思議そうな顔をしていたら

「勇者は勇者らしく、お姫様を助けてほしいだけだ。」

それに異議はないが。

「イルルの目がヤバイ。そろそろ重傷者を出しかねない。策はあるから合図したらレグナをつれだすんだ。」

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