勇者34歳
ナターシャさんの表情が、絶望に変わる。

「無理…。血を失いすぎてる。既に体が死に始めている。」

「うそ…。」

俺は固まる。信じたくない。
でも、どう見ても、
助からない出血量だった。

「ナタ、だって、ラウザはまだ、いきがある…よ。」

「僕だって、助けたいよ…。」

「ラウザだと?」

さっきから知らない声が、うるさいな。

「イブ…ク…。」

血を吐きながらかすれた声で話すラウザを、
ナターシャさんは、もう止めない。

知らない魔族狩りの男が、
いつの間にか、駆けてきた。

「遺言を、残しきれる程度まで、もたせられますか?」

駆けてきた男がナターシャさんに聞く。

「ゆいごんって…うそ、うそだろ、ラウザ!」

イルルがわめく。
信じたくないのはわかる。
俺だって信じたくない。

ナターシャさんは、何も語らず、
魔族狩りの男の問いかけに
静かにうなずいた。

「職業柄、人の死なんて、何回も見ました。助からないことはわかってます。」

「遺す、言葉、も、あまり、ない、が。イブナク、が、来たのは、ラッキー、だ。」

「イル、ル、元に、戻ったら、イブナクに、魔符を…。」

「わかりました。」

イブナクと呼ばれた男はラウザの手を握ってうなずく。

「ラウザ、なんで、どうして、どうして、どうして…?」

小さな声で、ぶつぶつと呟いていたイルルが泣き出す。

「ラウザ!ごめん!ごめん!」

ラウザは小さくなったイルルの頭を
2、3回、ぽふぽふと撫でると
静かに息を引き取った。

「ラウザぁああああっ!」
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