牛乳
小宮はビニル袋から昼ご飯として買ったおにぎりと焼きそばパンを取り出すと、かぶりついた。暇だったので、何気なしに青年の後ろ姿を見つめる。
草臥れた白いカッターシャツ。細いけれど、男らしい背中。闇夜を彷彿とさせる黒色の短髪。今時の若者にしては珍しくワックスはかかっていないから、風に揺れる度に柔らかそうな印象を与える。染色していない黒は本当に美しいと思う。昔々、 髪の毛が美麗だった為に殺された騎士がいたんだ、と授業中に先生が言っていたことをふと思い出した。王様に嫉妬されたのだとか。いつだって理不尽な世の中だ。
そのまま視線を下げる。牛乳を飲もうと前へ傾けられた頭のせいで皮膚が張る首筋。肌が黒くならない体質なのだろう、白く、女性的な項である。汗のせいで張り付く蠱惑な襟足。
小宮は思う。これで女ならば完璧だなあ、と。そういうお年頃なので、矢張り考えることは考えてしまうのだ。接吻の一つすらしたことのない彼は、女性の柔らかそうな肌を想像して、焼きそばパンを咀嚼した。