♡祐雫の初恋♡

「この樹は何かしら」

 麗華は、木陰を作っている新緑の樹を見上げた。


「桜にございます」

 祐雫は、即座に答える。


「まぁ、桜なの。

 桜は、花の時期が終わると緑に紛れてわからなくなるのね」

 そよ風が緑の桜葉を揺らした。

 新緑の木洩れ日が祐雫に集まる。


「本日の麗華さまは、少しお淋しそうでございます。

 琳子さまとご一緒ではないからでしょうか」

 桜の緑光を浴びた祐雫は、自分らしさを取り戻していた。


「そう」

 琳子は、慶志朗から別れを告げられたすぐ後に見合いをして、

 来春結婚を決めていた。

 それを思うと琳子の潔(いさぎよ)さと順応力が羨ましくもあった。

 
 その時、琳子は、

『わたくしは、麗華さまに太刀打ち出来ぬと、

 初めから、覚悟はできてございました。

 慶志朗さまと麗華さまとご一緒させていただく

 お時間がとても楽しゅうございましたので、

 その想い出だけで充分にございます。

 このようになった以上、

 麗華さまもご自身の進むべき道を早く見つけられますよう

 お祈り申し上げます』

 と助言してくれたのだった。




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