♡祐雫の初恋♡

(祐雫さん、あなたの所為で、わたくしが悩ましいのに、

 それを憂えてくれるなんて、妙なご縁ですこと)

 麗華は、こころの中で呟いた。


「わたくしと琳子は、外国へ留学することになった

 慶志朗との婚約を解消したの。

 琳子は、この秋にお見合い相手と結婚してよ」


 麗華は、大きな溜息を吐いた。


「麗華さま、まぁ、そのような」

 祐雫は、思わず麗華の手を握りしめる。

 麗華の溜息が自身の所為だとはつゆ知らず、

 麗華に元気を取り戻してほしいとこころを痛めた。


(自分のことのように瞳を潤ませて、

 憎くてしようがないけれど、どこか憎めない娘だわ)

 麗華は、祐雫を見つめた。


 色白の肌に桜葉の緑が反射して、乙女の表情の奥に、

 これから美しく成長する片鱗が覗(うかが)われた。

 そして、慶志朗が祐雫を大切に守り育てようと

 しているような気さえしてきた。


 再三会わずとも、気持ちが通じているのであろう。


 慶志朗は、祐雫の若い枝を自由に伸ばそうとしているのかもしれない。

< 139 / 201 >

この作品をシェア

pagetop