♡祐雫の初恋♡
「失礼いたします。
嵩愿さま、少々よろしいでしょうか」
祐雫と慶志朗の間を裂くように、紳士が、慶志朗に名刺を渡す。
「菅野さま、すぐに参ります」
慶志朗は、紳士から名刺を受け取ると、小さなメモを祐雫に手渡した。
「申し訳ありません。
今宵も祐雫さんとの時間が持てそうにありません。
この埋め合わせは、近々必ずします」
慶志朗は、祐雫に対して親愛の笑みを浮かべた次の瞬間、
きりりとした精悍な表情へ変えて、人波に呑まれていった。
小さなメモを受け取った祐雫は、目前で宝物を逃した気分に陥り、
小さなメモを胸に抱(いだ)いて、
慶志朗の背中が人波に消えるのをただ見つめていた。