♡祐雫の初恋♡

「悪いが、お嬢さんをお借りしたいのだか」

 背後から、穏やかな紳士の声がかかる。


 真実は、驚いて、祐雫の肩から腕を離した。


 祐雫は、天の助けの気分で、紳士の顔を仰ぎ見る。


「榛(はしばみ)のおじさま」

 祐雫は、ほっとして、

 榛文彌(はしばみ ふみや)の傍へ歩み寄る。


 桜河電機の取引先である榛銀行取締役の文彌は、

 祐雫を娘のように可愛がっていた。


「先程から、父上さまが、祐雫さんを探されていたよ。

 さぁ、こちらへ」

 文彌は、祐雫をエスコートする。


「藤原さま、ごめんくださいませ」

 祐雫は、こころの動揺を包み隠して、優雅にお辞儀をする。

 
 文彌は、昔の自身を省みるように、真実を一瞥した。


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