奏でる場所~SecretMelody~
「じゃあ、初めから話すね。



あたしの家族はね、音楽が大好きなの。



特にお母さんが。



お母さん、私が言うのもなんだけど、天才ピアニストだった。



そして、あたしはピアノも好きだったけど、バイオリンの方が好きで、バイオリンを主に練習してきたの。」



「だから、さっきバイオリンを持っていたんだ。」



「うん。



少し自慢話になるけど、私、バイオリンの全国コンクールで優勝したの。



あ、全国って、日本内の事だよ?」



…それぐらい俺でもわかるわ。



でも、全国で優勝とか…それこそ天才やん。



「そして、世界コンクールに出場することが決まったの。



だけど…当日、事件が起こった。



お母さんがね、私のコンクールに向かう最中、交通事故に巻き込まれたの。



命に別状は無かったんだけど、なぜか今でも目が覚めないでずーっと寝たきりで。



お母さんのピアノ界での信頼は厚くてね、誰か、後継ぎが必要だった。



だけど、私の家族は私意外、ピアノをしていなかったの。



そして、私は母の意志をついで、ピアニストになることになった。



世界に出れるほどの、私のバイオリンの実力を全部投げ捨ててね。」



親の後継ぎ。



母の意志。



そんなものでピアニストになった、この女の人は、どんな気持ちだろうか。



きっと沢山悩んだのだろう。



そして、悩んで、悩みつくして出した結果は、“自分のバイオリンへの思いを捨てる”。



かなり苦しかっただろうな。



俺ならきっと、出来ない。



そして、バイオリンへの思いを全て捨てきれなくて、弾きたくなった。



だけど、今、弾いてしまったら後戻り出来なくなってしまうような気がして。



だから弾くのをやめた。



さっき、女の人のしていた行動の意味が、話を聞いて全部分かったような気がする。



「しんどい想いを…したんですね…。」



「…。でも、後悔はしてないの。



この世界で、生きて行ってやるって、そう決めたからね。」



…この女の人、強いな。



こうやって自分に言い聞かせて今まで頑張ってきたんだ。



女の人の影が、たくましく輝いているようだった。










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