きみに会える場所~空の上ホテル~
その声を聞いた時、胸が高鳴った。

「ようこそ空の上ホテルへ・・・・・・って、またお前か」

ちょっと不機嫌な顔つき、遠慮のない言葉。パリッと糊のきいたシャツ、黒いベスト。かっこよくて毒舌な、いつものレイが立っていた。

「お前って呼ばないでって言ったでしょ」

言葉とは裏腹に、私はにこにこしてカウンターに走って行った。手提げに入れたペンケースがかたかた鳴った。

「元気だった? レイ」

「はあ? お前帰ったの、ついさっきだろ」

まあ、そうなんだけど。つれないなあ、相変わらず。

「美緒ちゃん?! わー、どうしたのー?」
台車を押していたサキさんが、私を見るなり飛びついてきた。サキさんは女の人だけど、この大胆さにはどきどきしてしまう。

サキさんは不安そうな表情で私を見た。
「ちゃんと帰れたのよね?」

こくんとうなずく。

「うん。バスの中にいたんだけど、居眠りしちゃって目が覚めたらここに来てた」

サキさんは眉をひそめる。
「どういうことかしら・・・・・・。私の頼みごとはちゃんときいてもらったし」

カウンターにひじをついてレイが乗り出してきた。
「なあ、サキの頼みって何だったんだよ?」

私とサキさんは顔を見合わせた。

「内緒」
「女の子同士のひ・み・つ」
二人一緒に笑う。

「うわ。感じ悪」
レイが顔をしかめた。すねたような顔もかわいい。

サキさんが私の肩越しに何かを見ていた。私の肩からそっと手を外すと、鈴をふるような声で言った。

「お客様、何かお探しですか?」

振り返ると、少し離れたところに林原ゆり子さんが立っていた。








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