きみに会える場所~空の上ホテル~
林原ゆり子さんは、藤色の着物をきっちりと着こなしてすっきりと立っていた。

目が合ったような気がした。林原ゆり子さんが手招きをした。

サキさんが動き出そうとすると、「あなたじゃないの。そっちの見学者の人」とぴしりと言った。

「え、私・・・・・・?」

何だろう。内心びくびくしながら、私は彼女に近づいていった。

間近で見る林原ゆり子さんは、意外と小柄な人だった。だけど大女優というオーラが体中から出ていた。

周りの人には、私なんてかすんで見えないんじゃないかと思っちゃうくらい。

彼女はにこりともせずに言った。
「あなた、今、おひま?」

「えっと・・・・・・」
どうなんだろう。ひまと言えばひまだけど。でもここに来たってことは、またどこかで困ってる人がいて、きっと

「この後、何か予定入ってる?」
駄目だ。私のゆっくりした思考ではこの人の質問についていけない。とりあえず考えるのも判断するのも後回しにしよう。

「いいえ、予定は特にないです」
私は妙にきっぱりと断言してしまった。考えないままに言うと、いつもこんな感じになってしまう。

「じゃ、お茶につきあってちょうだい」
彼女は言うだけ言うとすっと歩き出した。

やっぱりマイペースな人だなあ。

私はずり落ちてきていた手提げを肩にかけなおすと、林原ゆり子さんの後を追いかけた。












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