祈りの月
 月の光が、あまりにも強すぎて、感覚がおかしくなっているのかもしれない。

 幻が見えそうなほど、月の蒼銀の光は、砂浜を美しく照らし出していたから。

「地球のことも聞いてみたかったわ。私の祖先は、地球人と共にここへ来たの。一度でいいから、泳いでみたいな。私は・・・・・・もう、行くことはないだろうけど・・・・・・、地球の海が、とても恋しいの」

「ほんとうに?」

 レイアの言葉に、カイの口から疑問がついて出た。
 
 そう、なのだろうか。

 知らない場所なのに。

 恋しいなんて。

 あまりにも、遠すぎる、故郷。

「――本当に、地球が恋しいのか?」

「なぜ? カイにとっても、地球は故郷でしょう?」 

 当たり前のように、さらりとレイアは言う。

「・・・・・・」

 カイが黙り込んでいると、ふいにレイアが立ち上がった。軽く、砂を払う。

「私、もう帰らないと。・・・・・・この姿でいられるのは、夜、月のある時だけだから。
 そういう、約束なの」

「約束?」

 コクリ、とレイアが頷く。

「月との約束。夜だけ人の姿にしてもらえるの。月の光が支配する時間だから。
 ・・・・・・またね、カイ、海で会えるかな?」

 レイアが一歩、後ろへ下がった。

 ざあぁぁん、と波が鳴って。

(消え、た・・・・・・?)

 我に返ったカイが振り返ると、レイアの姿は、もう見えなくなっていた・・・・・・。


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