祈りの月
「カイ!!」

 研究所へと向かう途中、声をかけてきたのは、銀髪に水色の目をした、ティルア人の少女だった。

 ゆるやかなカーブを描く銀の巻き毛が、形の良い輪郭をふちどっている。

 カイが振り向くと、少女は笑顔で小走りに駆け寄ってきた。

「おはよう!」

「サリーシャ・・・」

 カイは美しい少女を前に、胸の奥がズキリと痛むのに顔をしかめた。

 彼女はカイと、幼馴染のような関係だが、あまり顔をあわせたくない存在であった。

 決して、サリーシャが悪いわけでは、ないのだが。

 彼女は、カイが触れられたくない過去に、直結していたのだ。

「元気だった? 最近、会わないから、心配してたのよ」

 にこにこと嬉しそうなサリーシャを前に、カイは心の奥で罪悪感が渦巻くのを感じていた。

 なんとなく、サリーシャの水色の視線から目を逸らしてしまう。

「・・・普通にやってるよ」

「そう元気ならいいの」

 カイの視線が逸らされていることに気づいているだろうに、サリーシャは表情を変えない。

「・・・地球へ帰るかもって、本当?」

「まだ、ちゃんとは、決めてはいないけど・・・」

 カイが頷くと、サリーシャは眼差しを、軽く翳らせた。

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