祈りの月
 一人、残ったカイの面倒を快く引き受けてくれたのが、もともと親しくしていたサリーシャの一家だった。

 彼女にはとても感謝していた。自分という存在を受け入れてくれた事に。

 だから、不用意に子供時代を共にすごしたサリーシャを傷つけたくはなかったのだ・・・・・・。

 18歳の時に、カイがサリーシャの家から出て一人暮らしを始めたのも、そういった理由からだった。

「だめだな、俺は・・・・・・昔から。サリーシャは悪くないのに」

「―・・・カイ、私・・・」

 言い募ろうとするサリーシャを手で制し、カイは自嘲的な微笑みを浮かべた。

「もう、行くよ。今日は海に出るから、ちょっと急いでるんだ」

 なるべく傷付けないように、なるべく優しい口調に戻しながら言う。

「そう、なんだ・・・・・・引き止めて、ごめんね」

「いいよ」

 カイは笑って、サリーシャの頭に手を乗せた。

 体の内に宿った、火の様な感情は、だいぶ薄れていた。

「また、会える?」

 不安そうな眼差しは、きっとカイがいつの間にかいなくなってしまう事を恐れているのだろう。

「―・・・もし、地球へ行くときは、必ず挨拶に行くよ。黙って行ったりはしないから」

「うん」

 安心したように、サリーシャが頷く。

「それじゃ」
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