祈りの月
「―」

 さらりと言ってのけたドゥリーの言葉に、カイは絶句した。返す言葉が見つからない。

「今さら、驚くなよ。知ってるだろ、もちろん」

「・・・・・・そんなこと、言うなよ」

 カイには、彼女の想いに答えられない。

 長く一緒に暮らしていたから愛情のようなものはあるけれど、それは、家族に対してのような感情で、恋愛とは違うものだった。

 いや、それよりも、カイは地球人で、彼女はティルア人だ。

 その事実だけが、カイには大きかった。

 普通なら、それも大きな問題ではない。

 実際、地球人とティルア人の夫婦もたくさんいるし、ハーフも多い。

 だが、カイの受け継いだ血には、あの男の血が流れていた。

 海を汚した父親の・・・・・・。
 
 そんな自分は、ティルア人に愛されていい立場ではないとカイは強く思っていた。
 
 困った様子のカイを見て、ドゥリーは肩をすくめる。

 彼にとっては、カイもサリーシャも学生時代からの大切な友人だ。お互い、うまくいってくれればとは思うが、こればかりは本人たち次第である。

 カイの傷口が大きいのも分かってはいるのだが・・・・・・。

「??」

 ふと、ドゥリーは船の探知機に大きな反応を見つけた。

 わりと大きめの魚の影だ。この海域では見かけない大きさの。

(何だろう?)

 船から身を乗り出して、ドゥリーは下を覗き込んだ。


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