祈りの月
第5章~想い
 レイアが泳ぎ去っていくのを見届けてから、ドゥリーがカイを振り返った。

 顔が少しにやけている。

「なんだよ、カイ、イルカの知り合いがいるなんて聞いてないぞ」

「俺も、昨日初めて会ったんだ。その時は・・・・・・人間の女の子の姿をしてたよ」

「は? どういうことだ?」

 予想外のカイの答えに、ドゥリーが目を丸くした。

「――ティルアの月に祈ったらしい。夜だけ人の姿にしてもらえるって」

 説明を求められ、昨夜のレイアの言葉を思い出しながら、カイは言った。

 自分に会いに来た・・・・・・あたりの話はとりあえず心にしまっておく。

「――本当かよ・・・・・・月の話は知ってるけど・・・・・・」

 信じる信じないは別として、ティルアの月が、願いを叶えてくれるというのは、惑星ティルシアにいる誰でも知っている言い伝えだ。
 
 ドゥリーは意外と驚いた様子もなく言った後、少し真剣な面持ちで眉をひそめた。

「だけど、月に祈るには、何か見返りが必要だって聞いたぞ?」

「――見返り?」

 それは初耳だった。

「祈ればいいんじゃなかったか?」

「俺もそう思ってたんだけど、それが、どうも違うらしいんだ」

< 30 / 67 >

この作品をシェア

pagetop