祈りの月
「海にはね、色々な思いが伝わってくるわ。私たちは、たぶん海の中にいるからそれを感じ取れる。カイは海をすごく大切に思っていてくれて、でも―・・・」

 レイアはためらうように言葉を切った。

 少し迷う素振りを見せてから、

「でも、同じくらい、海を憎んでるでしょ・・・・・・?」

「―俺は・・・・・・!」

 そんなことはないと、反射的に、カイはレイアの言葉を否定しようとした。

 けれど、出掛かった言葉は喉で止まってしまう。

 頭の中で、レイアの声が反響する。ぐるぐると世界が回った。

 海を見るたびに思い出すのは、父の事で。研究所で死んでいった魚たちの事で・・・・・・海は、カイに辛い思い出しか、与えてくれなかった。

 無意識に――海へ、暗い気持ちを抱いていた。

「カイ」

 言い募ろうとするカイの手を、レイアが握り締めた。

 ひんやりとした感触。

「いいの。だから、私はカイに会いたかった。海を愛している、あなたの力になりたかったから。カイが辛い思いを忘れられるように」

「・・・・・・」

 カイは黙るしかなかった。

 触れたレイアの手から、想いが流れ込んでくる。

「たくさん、話しよう? 私、カイの想いを受けとめるために、ここへ来たのよ」

 月光が、強く砂浜を照らしていた。

 カイは、レイアにそっと、頷きを返した――。


 
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