祈りの月
「ずいぶん早いお帰りだな」

「ああ、めずらしい」

 ドゥリーの言葉にカイも素直に頷いた。

 学院の教授会があるときは、短いときでも、一週間以上は博士は帰ってこない。

 場所が遠いのと、――どちらかといえばこちらの理由が主だが――教授たちの話が長いからだろう、と2つの仮説があった。

「教授会でも・・・・・・イルカの話は出たよな」

「たぶん」

 そのドゥリーの見解について、否定はない。

 海洋研究者の集まりだ。数年ぶりにイルカの存在が確認されたのだ。かなり大きな話題になっただろうと想像は難くない。

「帰ってきてすぐに、カイを呼ぶって事は、レイアについてだろうな」

「・・・」

 カイは息をついて、椅子から立ち上がった。

 数日前から突然現れたイルカが、カイが近寄っても逃げない、カイに懐いている、というのは所員全員の知るところであったから、その考えに間違いはないのだろう。

 人の噂は広まるのが早いとカイはひどく実感してしまった。

「行って来る」

「ああ、がんばれよ」

 端的に言い、ドゥリーを残して、カイは研究室を後にした。
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