祈りの月
「カイ」

 廊下を歩いていると、後ろから呼び止められた。

「博士」

 足を止め、振り返った先には、海洋研究所の責任者であるクロス博士が立っていた。

 カイは軽く会釈した。

「今、ちょうどお部屋に伺おうとしてました」

 クロス博士は、黒髪のほとんどが白髪に埋もれているといった感じの初老の男だ。

「入れ違いにならなくて良かった」

 博士は、大きく人のよさそうな笑みを浮かべると、軽く頷いた。

「ずいぶん早いお帰りでしたね」

「ああ・・・・・・イルカの件で、色々と・・・・・・準備が必要になりそうでね」

「―」

クロス博士の口からレイアの話題を聞いて、カイは口を噤んだ。

「君に、懐いているようだね?」

「はい」

「君は、どう考えている?」

「どう・・・・・・とは?」

 博士の言わんとしていることを推し量れず、カイは視線をさ迷わせた。

「イルカの保護についてだよ。教授会でも話題になってね・・・・・・捕獲の方向で一致したんだが・・・・・・」

「俺は、反対です!! ――レイ、イルカには特に健康上の問題もみられない。捕獲の必要はありません!」

 カイは思わず鋭く叫んだ。

 廊下に声が響く。

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