祈りの月
 激した様子のカイに、博士は手で落ち着くように指示してから、考え込むように顎に手を当てた。

「・・・・・・ここ何年もイルカたちの目撃情報がない、ということは、私には悲観的な憶測しか思い浮かんでこないのだよ。君は、どうだ?」

「――」

 博士の言葉に、カイは立ちすくむ。

「別に私も、捕獲せずにすむのならばそうしたい。だが・・・・・・あのイルカは、もしかすると、この惑星で最後の一頭じゃないのか?」

「!」

 それ、は考えてはいけない事だった。レイアがティルシアの海の最後のイルカだなんて。

 もしそれが事実なら、彼女の未来は、もう閉ざされているのではないだろうか。

「カイ」

 博士が、カイの肩に手を置く。

「君の気持ちは分かっているつもりだ。人一倍、熱心な君だ。海を、生き物たちを大切に思っている。だが、私とてそれは同じだ。生き物たちが生きられるための最善の策を見つけてあげたい」

「・・・・・・はい」

 クロス博士の言っている事は、たぶん――いや、きっと正しいのだろう。

「イルカは頭の良い生き物だが、君が協力してくれれば捕獲できるだろう。どうだ?」

「・・・・・・少し考えさせてくれませんか」

「構わないよ。ゆっくり考えてくれ」

 クロス博士は大きく頷いた。

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