祈りの月
「ここは・・・・・・ルファース社の資源採掘場だ。海へ汚染物質を流した場所だよ。ここから、毒は世界中の海へ広がったんだ」

 ルファース社――今はもう存在しない会社である。海底から、希少な資源を採掘していた。

 その工場から流された汚染物質は、『原始の海』の海流に乗り、世界中の海にばらまかれた。

 もともと、海流の流れの速い海だ。

 汚染が行き渡るのに、そう時間はかからなかった。あっと言う間に、海には汚染物が広がってしまった。

「俺の名前は、カイ・ルファース――俺の父が、この工場の社長だった」

「カイの、お父さんが・・・?」

 レイアが驚きに目を見張るのを視界に捉え、カイはたまらずに顔を背けた。

「そうだ。この海を苦しめた張本人の息子なんだ・・・・・・俺は」

 手のひらを強く握り締める。
 
 何度、この身に流れる血を憎んだことだろう――。

「俺の父は、『原始の海』に、さんざん毒を流して、資源を取り尽したら、さっさと地球に帰って行ったよ」

 カイが10歳の時だ。

 我が父親ながら見事だと思う――海を汚し、かわりに富を得た父親は、反発が起こる前に地球へと姿をくらましてしまった。

 もっとも、ティルア人たちは、何も言わなかったけれど。

 反発は起きず、カイを憐れんだサリーシャの家庭に、カイは世話になることになったのだ。

「俺の父が・・・・・・海をこんな風にしたんだ」

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