ハッピーエンドの描き方
多少気まずい雰囲気になっているのとは裏腹に、そのイケメンは私の回答に満足したようだった。


「君の名前は?」

「宇野です」

「よくここに?」


私は黙って頷いた。

すると、イケメンはにっこり微笑んで見せたのだ。

ガムのCMが来そうなほど、白くて真っ直ぐな歯。

サングラスが邪魔だったが、素敵過ぎる笑顔だった。


「また今度、ここであった時は批評を頼むよ」


そういうと、そのイケメンは私が散々こき下ろした映画のDVDを持って、レジカウンターに向かって行った。

あそこまで聞いておいて結局借りるのか。

じゃ、別に聞かなくてもよかったんじゃないのか。

なんて不思議な人だろう。

でも、かっこよかったからいいや。

イケメンに微笑みかけられたことが嬉しくて、私の頭からバイト先のボスの表情が薄れかけていたが、すぐにぶり返した。

ああ、今日はもうだめだ。

早く帰って寝るに限る。

ほら、こんなにいいことがあった日でもハッピーエンドにはならない。

必ず何か引っかかることが起こる。

それが人生において、永遠に幸せに、なんてことがあるはずない。

やはり、完全無欠なハッピーエンドなんて存在しないのだろう。

手元に持ったディスクを眺め、私は小さくため息をついた。

DVDの面にも、幸せそうに抱き合うカップルの姿がえがかれている。

私の人生に、こんな結末は来ないのか、と思うと切なくなる。

ラブストーリーを見て切ない気持ちになるなんて、やりきれない。

私は、手に取ったDVDをパッケージの中に戻した。

それから振り返って、アクションムービーのコーナーに目を通す。

パッと目に入ったのが、いかにもカーアクションです、と主張しているようなパッケージ。

スカッとするには、この手の映画が一番だ。

私は、パッケージからディスクを取り出し、レジへと向かった。
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