ハッピーエンドの描き方
真実は知りたいが、夢が壊れるのは怖い。
私の日常に小さな幸せを運んでくれる、勝手な妄想を失いたくなかった。
このまま帰ってしまおうか、そのまま気づかないふりをして通り過ぎようか。
「何やってるの?」
思わず叫んでしまったことは言うまでもない。
その場に居合わせた客数人が、迷惑そうな顔で私を見た。
「脅かすつもりはなかったんだけど。
きみ、ずいぶん不審だったから」
そう言って、彼はいつものように私にパッケージを見せてきた。
「これ、見たことある?」
彼が持っていたのは、最新作の邦画。
確か、病気で妻を亡くし、メスが握れなくなった医者の話だった気がする。
「ええ、見ましたよ。
泣きました」
「君は何を見てもなくの?」
これは否定できない。
最短記録だと、開始十分で涙した映画もある。
「感受性が豊かなんです」
サングラスをかけたままだが、彼が笑ったのが分かった。
「じゃ、この俳優、どう思う?」
彼が指差したのは、今日本で一番、それどころか最近では世界でも注目を集め始めている俳優だった。
彼の名前は、藍川雅之。
していても、主に日本を活動拠点としているのは偉いと思う。
詳しくは知らないが、映画の新作にドラマ、世界中を飛び回って活躍していても、主に日本を活動拠点としているのは偉いと思う。