ハッピーエンドの描き方
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予想通り、おしゃべり好きな教授は私をただでは帰してくれなかった。
嫌いな人じゃないのでそれなりに付き合っていたら、いつの間にか辺りが暗くなった。
自宅最寄りの駅に着いたのは、午後八時過ぎ。
近所にあるレンタルビデオ店に向かいながら、私はどんな映画を見ようかと考える。
私が好きな場所は、レンタルビデオショップ、映画館、本屋、図書館。
映画と読書が好きだっていうのは大きいけれども、何よりも他人の人生を覗き込めるようで楽しい。
本や映画には、たとえ空想上であったとしても、誰かの人生が詰まっている。
それは千年前の偉人だったり、千年後のヒーローであったりもする。
ごく平凡な人物が、人生の過酷さに苦しみ、最後には成功するサクセスストーリーなんかも少なくない。
ともかく、こういう場所にはたくさんの人生がある。
そして、その他人の人生を、スクリーンを通してのぞき見するのが、私の楽しみ。
客の中にはかなり気色の悪い奴もいるが、関わらなければ問題ない。
そもそも、痴漢にあうような身分でもない。
店のドアを押し開けて中に入ると、若い男性店員が明るい声で迎えてくれる。
私は軽く会釈し、洋画コーナーに向かった。
そこまで大きな店舗ではないため、全体的にこじんまりしている。
それでも見たいものは大抵見つけられるし、不自由はしない。
今日は人の愛情に触れたい気分だ。
ラブコメディ系の映画がいいかもしれない。
ベタな展開は、それなりに面白いからベタなのだ。
現実には絶対に存在しない「ハッピーエンド」を楽しんで、少し現実逃避でもしようじゃないか