ハッピーエンドの描き方
いつもは癖のありそうな映画を選んだりする。

でも、今は冒険などするきはない。

幸せオーラ全開のパッケージを手に取り、中からディスクを取り出す。

今回は一本だけで精一杯だろう。


「ねぇ、きみ」


そう後ろから声をかけられた時、最初はわたしのことだと思わなかった。

レンタルビデオ屋で、「ねぇ、きみ」なんて言われる筋合いはない。

気づかないふりをしてレジに向かう。


「ちょっと、君だよ」


後ろから二回声をかけられたら無視するわけにはいかない。


「なんでしょうか」


振り返った先に立っていたのは、百六十センチの私が見上げなければならないほど背の高い男。

二メートル近くあるのではないだろうか。

細身というより、筋肉質に近い体格かもしれない。

水色のカラーシャツに黒いパーカー。

濃いネイビーのジーンズをはいているが、スニーカーはおろしたてらしい。

ブルーの、オールスターのスニーカーには、全くゴミがついていない。

栗色の髪はくしゃくしゃで無造作に見えるが、きちんとアップしてある。

顔はサングラスをかけていてよく見えないが、肌は色白。

輪郭も細すぎずデカすぎず。

日本人には珍しく、サングラスが良く似合っている。

夜のレンタルビデオ屋には似合わない、異様に爽やかなオーラを醸し出す男。

ハリウッドセレブのゴシップ写真でよく見るような姿だ。

体格がいいから、少し怖い。

でも、イケメンだったらなんだって許される世の中だ。

そんな男が、カーキ色のダルマに話しかけている。

一体何の用があるというのか。
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