籠の中
 過去ばかり思い返してはいけない。だけど過去が脳内を蹂躙する。
 僕といたことで希は幸せだったのだろうか。
 希にとって僕といた時間は無意味なことではなかったのか。そんな気がしてならない。
 希が「抱いて」と誘った夜、何かしらのサインを僕に放っていたのではないか。僕はもっと彼女のことを知るべきだった。もっと話を聞くべきだった。もっと一緒にいるべきだった。結局のところ、自分のことしか考えていなかった。僕は涙が自然と溢れ出た。後悔の涙でもあり、哀しみの涙でもある。人はいつもそうなんだ。何かが起こらないと気づかない。あっ!そういえばって。
 部屋の扉が開く音がした。
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