籠の中
 モーツァルト『レクイエム』を目を瞑りながら聴いていた情景を思い出す。あれほど聖なるベールに包まれていた希が、死んだ。
 僕の元から何も言わず、突然消え、音沙汰のなかった希が、死んだ。
 僕はコーヒーカップを持つ手が震えた。動揺が隠しきれなかった。それを知ってかモーツァルト『レクイエム』が店内に流れ出す。
「レクイエム?」
 僕は頷いた。
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