籠の中
 「もしよければ今聴きたいんだ」
「今?」
 彼女は、見知らぬ何かがそこにいるような表情をした。
「そこまで君が薦めるなら、この溢れる好奇心が消え失せぬ内に聴いておきたい」
 僕は彼女を見つめた。
 彼女も見つめ返して来た。四つの目のピントが合わさった。彼女は僕の心を覗くような目つきだった。黒の網目状のストッキングが洗練された身のこなしと彼女の細い脚に合わせ札のようにピタリと嵌まった。
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