籠の中
 僕は鳥肌がたった。さっきまで飲んでいてビールの酔いはこの音とともに掻き消えて行った。遠く、遠く、遠くの空へと。ヴァイオリンの音が良く聞こえた。一拍ずつ入ってくるその音は、ときに美しく、ときに怖く、ときに別の世界へと誘った。
 僕は思った。このレクイエムはどちらかというと死者の魂を鎮魂するのではなく、どこか別の次元から、土や、遺影から、魂を呼びもすような、そんな曲の一面を垣間みた気がした。
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