彼女の愛すべきドビュッシー
正直、

先生の時より、

全然弾けない。

「左の伴奏、

 あたしが弾いてあげるよ。

 てかさ、

 たかが練習曲。

 だけど、

 ここに感情こめてみて、

 超楽しいよ。」

「感情?」

「たかがド。

 そのドに、

 じゃあ、

 ああ、

 なんで俺はこんなに弾けない、

 っていう感情をこめて。」

せーの、

ド~

そこに彼女は、

即興で伴奏を付けた。

「ね、

 ちょいせつないけど、

 本当は弾きたいよ、

 みたいな風になったでしょ。」

「おもしろ。」

「ただ弾くのと、

 感情こめて弾くの、

 全然違うよ。

 弾きたくないときは、

 ああ、
 
 俺はなんでこんな曲弾かなきゃないんだ~

 って感情で(笑)」

「それって弾かないほうがよくない?」

「あは、

 バレタ?

 あたしは適当教師だから。」

そこに、先生が帰ってきた。
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