彼女の愛すべきドビュッシー
二人で海に向かう。

気が付くと僕らは手を繋いでいた。

堤防の岸壁に寄りかかって、

何もないその場に座った。

僕は学校のジャージに半袖。

彼女も簡単なショートパンツに半袖だった。

僕と同じに、

彼女もあぐらをかいた。

「なんで連絡くれなかったの?」

僕は聞いた。

彼女はその辺にあった棒をみつけて、

砂に何か書いている。

「だって、

 なんか幸せすぎたから。」

「幸せ?」

「修君といたら、

 辛いことも、

 悲しいことも、

 全部慰めてくれる。

 優しくしてくれる。

 甘えちゃうんだ、あたし。」

「うん。」

「でも、

 それじゃ弾けない。」

「弾けない?」

「修君にメールとか、

 電話とか、

 やめよう、って思ったら、

 そしたら、

 会いたい、

 とか、

 つらい、

 とか、

 そういう気持ちになると、

 ドビュッシーの曲がわかる。

 っていうか、

 ドビュッシーの曲に、

 こう、

 自分の想いが乗っかって、

 すごくよく弾ける気がした。」

 
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