あの子
side てるくん
僕の学年には、アイドルがいる。
といっても、芸能分野に属す子たちではなく、「高嶺の花」といった感じの女子。
幼なじみの「かいくん」によると、彼女は中学の頃バスケ部で、全国大会出場したらしい。
すごいな、そのチームのエースだったなんて。
その子の名前は―――
「ひよりー、渡島ひよりー」
[ひより]ちゃん。
僕の、片思いの女子。
教卓の上で本を開いた先生は、迷うことなくひよりちゃんの名前を呼んだ。
「はい」
僕の右斜め前で、ひよりちゃんは静かに返事をする。
入学したときは、ベリーショートだったのに。
今はもう、肩ぐらいまで伸びた。
当てられた問題を、スラスラ暗号のように解き、また先生に褒められている。
そして、席に座ってすぐ。
「ありがとう、てるくん。ココの問題、どうしても解けなくて」
数分前に、僕が教えた答えのことかな。
ぱっちりした目で、申し訳なさそうに笑うひよりちゃん。
そこがこの子の、可愛いところなんだろうな。