あの子
心当たりの無い、恩を僕はどうやら彼女に売ったらしい。
けど、何か勘違いしてないか?
「僕は、覚えてるよ」
彼女の表情が変わる前に、また一言。
「ジャージ破られた中3ならな。」
中3の頃、野犬に吠えられる少女を見つけた。
背は僕より高いくせに、足を怪我しているのかなかなか走って逃げない。
見かねた僕は、
その犬に破られたと連想させるジャージを身に纏う子を、
自転車に乗せて、全力で逃げた。
犬も女も苦手だけど。
その場面を目撃する数分前に、
彼女は僕の財布を拾ってくれた。
だから、助けた。