あの子
俺の下に転がるひよりは、表情を一つも変えずに、
「1on1、まだ終わってないよ」
いつだって、バスケのことしか考えていない。
「5対14でお前の勝ちだよ」
床にそう言葉を落とすと、返事は跳ね返らない。
上からひよりを見ると、普段気付かない額の広さとか、顔の小ささが際立つ。
やっぱ可愛い。
「久しぶりにかいくんとバスケした…」
「だな。明日は絶対筋肉痛だ」
「あたしも」
沈黙が続く。
外はまだ大雨で、屋根が軋む音がする。
ひよりは俺から目線を外して、転がったボールを見る。
「起きていい?」
「ダメ」
「…かいくん?」
「ダメ」
ひよりの頭に?が浮かぶのも無視して、俺はひよりを抱きしめた。
びくりと跳ねた身体を、ぎゅ…と。
「は、離して…」
「やだ」
「かいくん」
「……ひより、」
雨で湿ったワイシャツに悪寒を感じながら、ひよりの頬に手をそえる。
火照った顔は、いつものあどけないひよりとは思えなくて。
「好きだ」