俺様と闘う私『一部・完』
 カチャリ……


 音を立てて、一口コーヒーを啜ってカップを置いた志貴。



 その音にビクリと震える男の人。



 その男に畳みかけるように、志貴は話を始めた。



 「あなたが、山田太一さん……で、お間違いないですか?」

 「ハイ……」

 「今日、私がお呼びたてしたご用件は、お分かりですか?」

 「……は、い」




 震える口をなんとか押さえながら答えた、って感じだった。



 明らかに怯えてる。



 正直、このときは『志貴可哀そうだよ』って言いそうになった。



 黙っておけって言われてなかったら、十中八九言ってたに違いない。



 その言いつけと、状況の読めなさで口を噤んだ私は、心底正しかったと後で思った。








 「どうして、逃げたんですか」






 この一言で、ようやく分かった。




 志貴が、こんなに疲れた顔をして。



 私にただ黙っておけって言って。



 ほんとは許されないって言いながらも、私を同席させた。



 倒れそうなほど委縮する彼に、これでもかと威圧する態度。





 それに相反するほどの緊張感。





 その全ての答え。




 ―――おばあちゃんを、ヒイタ、犯人。



 その人だから、だ。
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