俺様と闘う私『一部・完』
 突然閉じ込められた腕の中―――


 それに驚くのは当り前、なんだけど……


 
 「し、」「悪かった」



 
 再び名前を呼ぼうと思ったら、遮られた。


 そして、さらにぎゅっと腕に力を込められた。



 「泣いていい」


 
 志貴が言ったのはただそれだけ。


 それだけなんだけど……




 「ふっ、うぅぅ……えぇ…ひ、ック、うわぁぁ……」



 泣きたくないなんて思考、全くどこかに捨て去られて。



 呆気なくボロボロと涙が零れた。



 志貴のシャツを両手でギュッと握りしめると、そっと頭を撫でる手。


 それがまた私に温もりを伝えて、ポトリポトリと雫に変える。




 何に対しての涙なのか分からない。


 おばあちゃんがいなくなったことなのか。


 犯人が捕まったことなのか。


 それとも犯人を責めきれない気持ちがあるからなのか。




 ただ、志貴が抱きしめてくれたから、なのか……



 よく分からない涙が頬を伝い続けて、私は許される限り―――というより。



 志貴に甘えて思い切り泣き続けた。


 お父さんが居ない悲しさ。


 ずっと感じてたけど言えなかった。



 パート仕事のこと。


 お母さんに言われたから仕方なかったけど、本当は私、きちんと正社員として違う仕事したかった。



 おばあちゃんの介護。


 本当におばあちゃんのことは大好きだった。


 でも、しんどいと思っていた部分もあって―――それから解放されたとどこかで感じてしまった自分。


 それが、許せなくて、苦しかった。




 挙げればきりがないほどの、自分に対するジレンマ。



 それが志貴の手から伝わる温かさで許されたような気がして、溜めていた分。


 涙となって流れた。




 ただただ、泣いた。


 言葉になんか、何一つせずに。
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