俺様と闘う私『一部・完』
 散々被ったシャワーによって、びしょ濡れの服はただ私の体を重たくするだけで。


 いつまでもここにいるわけにもいかず。


 私はバスルームから出ることを決意し、シャワーを止めてよろよろと立ち上がった。


 浴室も広かったけれど、開けた目の前の脱衣場も広い。


 さりげに取り入れられた照明も嫌みのないお洒落さがあって、明るすぎないのが丁度いい。


 なんて感想を持ちながら脱衣場に足を下しかけて、またしても遅ればせながら気がついた。



 ―――私、着替えは!?



 ぐるりと見回すと、バスタオルの横に衣服のようなものが積まれている。


 その上にはメモのようなものがどうやら乗っているようだ。




 『これを着ろ』




 間違いなく志貴だな、この文面。


 文章でも分かるけど、字体でも分かる。


 ちょっと角張っていて、でも丁寧に書かれた字。



 性格が思いっきり現れているなって思うと、フッと笑みが溢れた。



 ふらつきながら、ビチョビチョの服を風呂場で脱ぐと、柔らかくて真っ白なバスタオルで体を拭く。


 どうしてこう、ここのマンションのタオルは気持ちいいのか……とまたどうでもいい感想を持った。


 って、志貴の家とマンションの持ち物のタオルは別なんだけど。


 そんな小さなところにも、お金持ちなんだなーなんて妙な感心を持ってしまった。
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